松平定信は幕府の重要な役人でした。
ある年、地方に見回りに出かけた時、ある関所を通りました。
その時、定信は、何の気なしに、笠をかぶったまま、通りぬけようとしました。
すると、関所の役人の一人が、
「関所の規則ですから、笠をお取り下さい。」
といって、注意しました。
定信は、それを聞いて、
「なるほど、そうだった。」
と言って、すぐに笠をとって通りました。
その日、定信は、その土地の上役の者に、
「今日、笠をかぶったまま関所を通ろうとしたのは、まことに
自分の不心得であった。それを注意してくれた役人に、
あつくお礼を伝えてもらいたい。」
と言って、ていねいに挨拶しました。