尋常小学校 巻3

尋常小学校の教科書より:小野道風(おのの とうふう)

昔、小野道風(おのの とうふう)という人がいました。 若いときに字を習いましたがうまく書けず困っていました。 あるとき、雨の降る日に道風が庭に出て池の傍を通りますと、しだれ柳の枝へ、かえるが飛びつこうとしています。 かえるは柳のつゆを虫とでも思ったのでしょう、飛んでは落ち、飛んでは落ち、何べんも、何べんも、飛びつこうとします。 だんだん高く飛べるようになって、とうとう柳に飛びつきました。 道風はこれを見て、このかえるのように、根気がよければ 何事もできないことはないと悟りました。 それからは、一生懸命になって毎日、字をならいました。 ずんずん手が上がって、のちには名高い書手となりました。   尋常小学校 小学国語読本 巻3 昭和3年 小野道風(894年から966年)は、平安時代中期を代表する能書(書の上手な人)です。 小野道風の家系、小野氏は遣隋使で有名な小野妹子を祖先として、岑守・篁・美材等の学者や能書を輩出した名族でした。 幼いころから字が上手だった道風は、書をもって宮廷に仕え、数々の輝かしい業績を残しました。 愛知県春日井市ホームページより

尋常小学校の教科書より:「お花の子守唄」

お花は学校から帰ると、お使いに行ったり、庭を掃き掃除したりして、お母さんの お手伝いをします。 赤ちゃんが泣き出すと、すぐ傍によって 「ねんねんころりよ、おころりよ。 ぼうやはよいこだ、ねんねしな」 と、かわいらしい声で子守唄を歌います。 それでも、まだ赤ちゃんが泣くときは 「おかあさん、赤ちゃんに、お乳をのませてちょうだい」 こういって、抱っこをして、おかあさんのところにつれていきます。 お花は今年、九つです。   尋常小学国語読本 巻3 昭和3年

尋常小学校の教科書より:「五一じいさん」

村はずれに水車があります。村の人は五一車と呼んでいます。 五一じいさんがその水車屋の番をしているからです。 五一じいさんは、おもしろいおじいさんです。 「からすの鳴かない日はあっても、五一じいさんが歌わない日はない」 といわれるほど、いつも機嫌よく歌を歌うじいさんです。 長い半纏を着て、みじかい股引をはいて、小糠だらけになって、はたらくじいさんです。 ざぶざぶ落ちる水の音、とんとんひびく杵の音、そのにぎやかな中から 「しごとなされよ、 きりきりしゃんと。 かけた、たすきの、切れるほど。」 五一じいさんの歌う声が聞こえます。 いつか、うちのお父さんが、道で、 「いつも、お達者なことで。」 とおっしゃったら、五一じいさんは 「もう、すっかり、弱りまして。」 と、いって、大きな手で頭をなでました。 五一じいさんは、今年、六十九歳だそうです。 尋常小学校巻3 昭和3年