礼儀のこころ

修身の教科書より:一分で知る松平好房と礼儀の精神

松平好房は、小さい時から行儀の良い人で、自分の居間にいる時でも、父や母がおられる方に足を伸ばしたことは、決してありませんでした。

よそに行くときには、そのことを父母に告げて、帰って来た時には、きっと父母の前へ出て
「ただ今かえりました。」
といって、あいさつをし、それから、その日にあったことを話しました。

好房は、父母からものをもらう時は、ていねいにお辞儀をして、それを受けとり、いつまでもたいせつに持っていました。

また、遠くへ出られた父母から手紙をもらった時は、まず、いただいてから開き、読み終わると、また、いただいて、それをしまいました。

父母が何かおっしゃる時には、好房は、行儀よくきいて、おっしゃることにそむかないようにし、
また、人が好房の父母の話をする時でも、すわりなおして聞きました。

好房は、このように、父母をうやまって、行儀がよかったばかりでなく、親類の人にも、お客にも、いつも行儀よくしましたので、好房をほめない者はありませんでした。

松平好房
島原藩の主、松平忠房の長男。21歳で早世したが孝行で知られている。

尋常小学校修身書 昭和11年より

戦前の教科書より:礼儀の作法とは

私たちが世間の人と共に生活する上では、知っている人にも、知らない人にも、礼儀を守ることが大切です。

礼儀を守らないと、人に不快な思いをさせ、また自分の品位を落すことにもなります。

人の前に出る時には、頭髪や手足を清潔にし、着物の着方にも気をつけて、身なりをととのえなければ失礼です。

人の前であくびをしたり、目くばせをしたり、内緒話をしたりするような不行儀なことをしてはなりません。

人と食事をする時には、音を立てたり、食器を乱雑にしたりしないで、行儀よく、ゆかいな気分で食べるようにしなければなりません。

部屋に出入りするときの、戸やしょうじの開け締めは、静かにするものです。

電車などの乗り物に乗った時には、たがいに気をつけて、人に迷惑をかけないようにすることが必要です。自分だけ席を広くとったり、行儀の悪い格好をしたり、いやしい言葉使いをしたりしてはなりません。

集会所・停車場、その他、人が混み合って順番を守らなければならない場所で、人を押しのけて、我先にと行ってはなりません。

また人の顔かたちや、なりふりを笑い、悪口を言うのはよくないことです。

人にあてた手紙を、許可なく開いて見たり、人が手紙を書いているのをのぞいたりしてはなりません。

そのほか、人の話を立聞きするのも、人の家をのぞき見するのもよくないことです。

親しくなると、何事もぞんざいになりやすいものですが、親しい中でも礼儀を守らねば、仲よく交際することはできません。

尋常小学校の教科書より:「五一じいさん」

村はずれに水車があります。村の人は五一車と呼んでいます。
五一じいさんがその水車屋の番をしているからです。

五一じいさんは、おもしろいおじいさんです。
「からすの鳴かない日はあっても、五一じいさんが歌わない日はない」
といわれるほど、いつも機嫌よく歌を歌うじいさんです。

長い半纏を着て、みじかい股引をはいて、小糠だらけになって、はたらくじいさんです。
ざぶざぶ落ちる水の音、とんとんひびく杵の音、そのにぎやかな中から
「しごとなされよ、
きりきりしゃんと。
かけた、たすきの、切れるほど。」
五一じいさんの歌う声が聞こえます。

いつか、うちのお父さんが、道で、
「いつも、お達者なことで。」
とおっしゃったら、五一じいさんは
「もう、すっかり、弱りまして。」
と、いって、大きな手で頭をなでました。
五一じいさんは、今年、六十九歳だそうです。

尋常小学校巻3 昭和3年

尋常小学校の教科書より:「指の名前」

夕飯が済んだあと、おじいさんが一郎に尋ねました。
「おまえは手の指の名前を知っていますか?」
「知っています。一番太いのが親指で、一番細いのが小指です。」
「それから?」
「それから、一番長いのが中指です。中指と親指の間にあるのが人差し指、中指と
小指の間にあるのが、薬指です。」
「そうです。では、足の指の名前を知っていますか?」
「同じことでしょう。」
「まあ、言ってごらん。」
「親指、人指し指。」
おじいさんは笑いながら
「二郎、お前はその指で人を指しますか?
足の指には親指と小指の他は名がないのです。」
と、教えてやりました。