日本人の知らないアメリカ

日本は真似できない 「第三世界の金融国」エルサルバドルのあきれた処世術

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エルサルバドルはどんな国か?

トランプ氏の「メキシコ国境の壁」問題の主役だった国

前大統領トランプ氏がメキシコとの国境に壁を作ると発言した件は、日本も大きく取り上げられましたね。

メキシコから国境を越えて移民したがる人々を食い止めるためでした。

しかし当時、アメリカの国境で主に問題になっていた人々は、実はメキシコ人ではありません。

メキシコに隣接する中米の小国3国、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスの人々がメキシコを縦断して押しよせたのでした。

この3国は英語圏ではまとめてノーザン・トライアングル(Northern Triangle)と呼ばれ、殺人発生率が世界的に高い地域として有名です。
そのため、アメリカで生活を立て直すことを希望する人が後を絶たないのです。

  

 


メキシコ国境に向かう人々(ガーディアンより)

 

国民の5人に1人がアメリカに移住した国

3国のうちでも、エルサルバドルは特にアメリカへの移民が多い国です。

2015年までの調査では、およそ140万のエルサルバドル人がアメリカに住んでいます。

エルサルバドルの人口は645万人ですから、国民の5人に1人がアメリカにいることになりますね
アメリカ生まれの子孫も含めると、その数は250万にのぼります。

結果、エルサルバドルはメキシコ、中国、インド等とならんで、アメリカ移民を5番目に多く出している国となっています。
以下のグラフでわかりますが、母国の人口を考えると驚異的な多さです。

 

ピュー・リサーチ・センターによる2018年のアメリカ国内の移民数


(棒グラフは単位百万)※母国の人口は当方で加えたもの
 

メキシコ出身の移民の数はエルサルバドルの8倍ですが、母国の人口はエルサルバドルの約20倍です。
いかにエルサルバドルの国民が多くアメリカに渡っているかわかります。

 

貿易もアメリカに依存した国

エルサルバドルの最大の貿易相手は輸出入ともアメリカです。
輸出先の45.8%、輸入元の34.4%をアメリカが占めています

参考として日本の場合、輸出先のトップは中国で22.1%、次がアメリカで18.4%です。
輸入元もトップは中国で28.8%、アメリカはASEANに次ぐ三番目で11.4%です。

エルサルバドルは通貨も自国通貨コロンを廃止し、アメリカドルを使用しています。

 

消えた貧しい人たち

アメリカに移民するエルサルバドル人の多くは、中卒以下の学歴しかない貧しい人たちです。

英語版wikiによると、貧困層は一日1ドル以下の生活をしています。子供に教育を与える余裕がないため、子供は学校に行かずコーヒー農園で働いたり家事をするのが普通です。
結果、仕事がなく、学校にも行っていない若者が多いのです。

もともとエルサルバドルの事業主は儲けを従業員の給料に還元しない傾向でした。90年代、儲けのうちで従業員の収入に割り当てられる分は3割ほどでしたが、2005年頃になると1/4まで減ったとする調査もあります。

あまりの貧富の差ゆえか、2009年の選挙の後、エルサルバドルに初めての左派政権が生まれます。
左派政権は治安改善に力を入れ、一時的には成功したものの、2015年には2000年台で最悪の殺人発生率を記録します。

貧困層は治安の悪さの影響を最も受ける人達ですね。
この時期、アメリカに向かうエルサルバドル人は非常に増加しました。

ピュー・リサーチ・センターの2015年の調査によると、エルサルバドル出身のアメリカ移民の半分以上(51%)は不法移民です(unauthorized immigrants)


メキシコ国境最大のキャンプ場(youtubeより)

格差の頂点 富裕層はどのような人たちか?

エルサルバドルはもともとコーヒーを主に輸出する農業国でした。そして、その頃から、農作物の取引を寡占的に取り仕切る一族(ファミリー)が複数存在しました。
その中には、アラブ系やユダヤ系を祖とする家もありました。

こうした農業を礎にした富豪ファミリーの他に、政治家を出す家も富豪に加わりました。エルサルバドルは二大政党があり、右派、左派ともにギャングと癒着しています。

彼らは財を元手にして不動産やチェーン店の経営など多角的にビジネスを展開しました。

現在、エルサルバドルには財閥のような経済グループが複数あり、財産はそこを運営するファミリーのものとされています。
個人の誰が、どれだけ財産を持っているか?といったことは見えにくくなっています。

アメリカでイーロン・マスク氏やザッカーバーグ氏がちやほやされるような、個人の成功者がマスメディアに出る傾向はありません。

同じアメリカなら、古くからいる上流階級WASP=ディープ・ステートの方に近い感じですね。
(関連記事:「ディープ・ステートはあるのか?アメリカ国民も認めるカースト制度」)

中にはアメリカの富裕層のように財団を持ち、慈善活動を行ってるファミリーもあります。
そしてアメリカのそれらと同じく、彼らも慈善にお金を投じても、不平等な社会を変えようという気持ちはあまり持っていません。

 


富裕層アグリサル・グループ(Grupo Agrisal)が開発した、首都サンサルバドルのランドマーク トーレ・フューチュラ(Torre Futura)。英語版wikiより

 

トヨタとも関わりがある富裕層

エルサルバドルの富裕層はきらびやかな服を着て街を闊歩するなんてことはしません。
治安が悪い国で標的になるのを避けるためです。
レセプションなどがあるときは、会場に出向いた後に着替えたりアクセサリーをつけたりします。

こうした生活をしているため、エルサルバドルの富裕層のことは、みな存在を知っていても、具体的にはよくわからないということが多いようです。
特権的な立場にある彼らは税金もほとんど払っていないと噂されています。

フォーブス・メキシコはエルサルバドルで最も裕福な人物を、ショッピングモール、不動産、自動車販売などを行うポマ・グループGrupoPomaのトップ、リカルド・ポマ(Ricardo・Poma)であるとしています。ポマグループの会社はトヨタとも協力関係にあります。

 


リカルド・ポマ氏のエクセルオートモトリス社とトヨタの記念式典

農業国から金融国へ変化した、あきれた事情

現在、エルサルバドルの上流階級はあまり農業に力を入れていません。金融業にシフトしています。

コーヒー農園だった場所にはショッピングモールなどの商業施設が建つようになっています。
ビットコインの話題では日本でも注目を集めてますね。

治安の悪い不安定な国であるエルサルバドルが、なぜ金融でやっていけるのか?
そこには唖然とする理由があります。

GDPの柱はアメリカ出稼ぎからの仕送り

エルサルバドルは、ラテンアメリカで最も人口密度の高い国です。GDPも南北アメリカ大陸中で12番目に高いです。

驚くべきことに、その経済成長の多くは自国の努力によるものではありません。アメリカに行った民からの送金によるものです。

海外送金の割合はGDPの23%を占めます。海外からの送金がそこまで高い割合を占める国は他にほとんどないとnewsuniqueは述べています。

アメリカ移民が増えるほど故郷の家族への送金額は増加します。

結果、エルサルバドルの富裕層は、これら送られた金の手数料や運用で利益を得る金融業にシフトしたのです。

格差と治安の悪さに耐えられなかった人たちがアメリカに行き、その仕送りしたお金がまた格差の上にいる人達の儲けになる。やりきれない構図ですね。

 

格差が解消に向かった不思議

近年、エルサルバドルの貧富の差は不思議な形で解消の方向に向かっています。
英語版wikiでは国民の40%にのぼるとある貧困層の割合は、近年の記事では32.7%となっています。

世界銀行が発表する、所得の不平等さを示す指標をジニ係数といいます。
10年前まで、エルサルバドルのジニ係数はアフリカ南部と同じぐらいでした。
しかし現在、その数値は中国と同じぐらいになり、ノーザン・トライアングルの中で最も格差が解消された国になっています。

 

エルサルバドルのジニ係数の推移(世界銀行)

 

改善の理由が政府の努力の結果なのか、貧困層がアメリカに去ったからなのかは、わかりません。
エルサルバドルはノーザントライアングルの中で、最も人口が少ない国です。

ノーザン・トライアングル人口:
エルサルバドル 645万

グアテマラ 1660万

ホンジュラス 974万

 

アメリカと共にある世にも奇妙な国 エルサルバドル まとめ

前記事「リアル「北斗の拳」の国エルサルバドル マンガで知る中米の治安の悪さの理由」から続く流れを、まとめてみます。

  1. アメリカの支援を受けた右派政権と左派の間で内戦が起きた
  2. 内戦中にアメリカに移住した民が、ギャング化した
  3. ギャングがアメリカから国外追放され、エルサルバドルに戻って治安を乱した
  4. 治安の悪化により、貧困層の多くがアメリカに移民した
  5. アメリカに移民した半数は不法移民である
  6. 現在、国のGDPを主に支えるのはアメリカに出稼ぎに出た民からの仕送りである
  7. 富裕層は農業を縮小し、出稼ぎからの仕送りを柱にした金融業にシフトした
  8. 貧困層がアメリカに移民した後、貧困層の割合が減り格差も改善された

エルサルバドル・・・正直、日本人の常識を覆す国かと思います。
私自身、エルサルバドルについて書こうと決めたときは、最後にこうした驚きを抱くとは思いませんでした。

日本人にはまず思いつかない、キリスト教文化ならではの処世術でしょう。社会の上層と下層が分離してるからこそ、できる発想だと思います。

「おおよそ持っている人は与えられて、いよいよ豊かになるが、持っていない人は持っているものまで取り上げられるであろう」

イエスの言葉 マタイ伝 25章

 

世界は本当に広いですね。


 
引用元はこちら
 

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